間違い

「香さん凄くいい人だった。」

 

 

 

「そうか…。」

 

 

 

ちらりと恭太さんの顔を伺うと、嬉しそうに笑う。

 

 

 

 

「綺麗な人だよね。」

 

 

 

「そうかな。」

 

 

 

「何か憧れちゃうなー。」

 

 

 

ニコニコしながらそうか。と呟く恭太さん。

 

 

 

 

何だか…

 

 

 

 

「素敵な人だよね。」

 

 

 

「あぁ。」

 

 

 

心がチクリと痛むのは気のせいだろうか。

 

 

 

 

 

 

気のせい…

 

 

 

なんだろうか。
あれから私たちのチームはポスターのデザイン作成に取り掛かった。

 

 

 

それぞれが熱の入ったプレゼンを語る。

 

 

 

 

「なので、この女優を起用したいと思うのですがいかがでしょうか?」

 

 

 

「確かにいま人気の子だけど、若い子にターゲットを絞りすぎている気がします。」

 

 

 

「類家先輩はどう思いますか?」

 

 

 

「そうね…、私はいっそ誰かの顔を入れなくても良いかなって思ってるんだけど。」

 

 

 

「つまり、タレントの起用はしないって事ですか?」

 

 

 

「そうね…。」

 

 

 

私の発言に後輩の遠藤くんは頭を抱えながらメモを取っていく。

 

「藤高さんはどう思いますか?」

 

 

 

「えっ?」

 

 

 

「永遠の愛って聞いてどんなものを思い浮かべますか?」

 

 

 

チームメイトの一人が、唐突に藤高さんに質問を投げかける。

 

 

 

 

「永遠の愛ですか…。」

 

 

 

彼は口に手を当てながら暫く考える。

 

 

 

 

「永遠の愛というか、愛の始まりってみんな初々しい戸惑いから始まるものだと思うんです。その延長線上に永遠の愛ってものがあるんじゃないでしょうか。」

 

 

 

なるほど…。

 

 

 

 

私はプレゼンの資料に気づいたことを書き始める。

 

 

 

「確かに。そうかもしれないです。」

 

 

 

「今、進行中の愛ではなく、これからの人にも当てはまると。」

 

 

 

皆はまた黙りこくるとそれぞれがその意味を考える。

 

「じゃあ、こういうのはどうかな?」

 

 

 

私はホワイトボードに赤いペンで文字を書いていく。

 

 

 

 

「永遠の愛は直ぐ側にある」

 

 

 

 

「永遠の愛っていうと重く感じる人も多いと思う。だけど、藤高さんが言っていたように、家族でも、友人でも、みんな愛の入口はきっと一緒なのよ。」

 

 

「そこに年齢も、性別も関係ない。皆目の前の恋が永遠だと思って生きてる。」

 

 

 

「だからこそ、あえてフランクに捉えるということでしょうか?」

 

 

 

「そう。…どうかな?」

 

 

 

皆は少しの間考える。

 

 

「良いと思います。」

 

 

 

「一度、これを提案してみましょう。」

 

 

 

「よし。じゃあ今度の打ち合わせではこのテーマで行きます。」

 

 

 

みんなの顔に広がる安堵の表情と、拍手。

 

 

 

 

ここ最近行き詰まっていた話し合いが少し前に進んでホッと息をつく。

 

 

 

みんなが話し合いを終えて、ぞろぞろと会議室を出て行く。

 

 

 

私もお昼を食べようと席を立つと、後輩の子が小走りでこちらに近づいてきた。

 

 

 

 

「類家さん、すいません。」

 

 

 

「どうしたの?」

 

 

 

「実は、この前の発注の数を誤ってしまったらしくて…、クライアントから在庫が足りないとクレームが来てしまいまして…。」

 

 

 

小さく震えながら涙目になる彼女。

 

「分かった。それは私が代わりにやるから状況を詳しく説明して。」

 

 

 

「えっ、は、はい…。」

 

 

 

彼女はオドオドしながら状況を説明する。

 

 

 

それを聞くと、私は手早くスケジュールの調整をしてクライアントに電話をかける。

 

 

 

 

「もしもし、糸井ペーパーの類家と申します。この度はご迷惑をおかけしまして誠に申し訳ございません。」

 

 

 

「結構です。もうお宅とは今後一切仕事をするつもりはありません。」

 

 

 

「今日の夕方までに必ず予備のもので間に合わせます。どうか、私たちにもう一度チャンスをください。」

 

 

 

再三の交渉の結果、本日の夕方までに残りのポスターを600部作るという条件で手を打ってもらった。