クリスマス用の企画

私は自分の担当しているクライアントのスケジュール帳を開くと会議の時間を調整する。

 

 

 

とりあえず、私のこの時間帯に今日の遠藤君のクライアントとの話し合いをいれて…。

 

 

 

 

「透、加藤部長が昼休みの前に来て欲しいって伝言よ。」

 

 

 

香苗がデスクからひょこっと顔を出す。

 

 

 

 

「部長?分かった。そうだ香苗、この前のランチの約束だけど、この後でも良い?」

 

 

 

「良いわよ。じゃあ、先にカフェ行ってるから終わったら来て。」

 

 

 

「了解、顔出したらすぐに行くから。」

 

 

 

香苗は笑顔で頷くと部屋を出て行った。

 

 

 

私はスケジュール帳をカバンの中にしまうと足早にエレベーターに乗り込んでボタンを押す。
「前髪、変じゃないかな?」

 

 

 

エレベーターの鏡の前でスカートの皺や髪の毛を手直しする。

 

 

 

会社では完全なる上司と部下というスタンスを保っているため、恭太さんから呼び出しを受けることはほとんどない。

 

 

 

というか一度もない。

 

 

 

 

 

「何の用なんだろう・・・。」

 

 

 

そんなことをぼんやりと考えているとエレベーターのドアが静かに開いた。

 

 

 

 

「あっ…。」
「あっ…。」

 

 

 

 

先日恭太さんと帰るときに少しだけ会ったな。

 

 

 

確か…藤高さんだっけ。

 

 

 

彼は書類から目を上げると小さく会釈をした。

 

 

 

 

それに私も会釈を返すとエレベーターはまた上昇を始める。

 

 

 

当たり前のように無言。

 

 

(ピンポーン)

 

 

 

 

「うわっ。」

 

 

 

扉が空いた瞬間に二人しかいなかったエレベーターは、あっという間に人で溢れ私は奥の方に追いやられていく。

 

 

 

丁度お昼休みの時間と重なったからか、ビルの最上階の社員食堂に向かう人達が多いのだろう。

 

 

 

 

 

階が上がる度にグイグイと後ろの方に押されて息が詰まってくる。

 

 

 

 

「ヤバイ…。」

 

 

 

 

小さい頃からあまり人ごみは得意な方じゃない。

 

 

有無を言わない圧迫感に冷や汗が出てきた。

 

 

 

 

エレベーターに乗っているだけなのに時間が長く感じる。

 

 

 

 

(ピンポーン)

 

 

 

 

恭太さんのいる階に到着してエレベーターの扉が開く。

 

 

 

 

先ほどまで扉の前にいたはずなのに、ゴールは遥か遠くにある。
「あっ…あの、」

 

 

 

小さい声を搾り出すと、急に右手を掴まれる。

 

 

 

 

「すいません。降ります。」

 

 

 

 

(えっ?)

 

 

 

ぎゅうぎゅうになっている人をかき分けて、彼は私の手を引いたままエレベーターの外に出た。

 

 

 

 

新鮮な空気が肺を満たして安心する。

 

 

 

 

「大丈夫ですか?」

 

 

 

「あぁ、はい。ありがとうございました。」

 

 

 

私は慌ててお辞儀をする。

 

 

 

 

「いいえ。」

 

 

 

彼は小さく笑うと、スタスタと恭太さんのいる部屋に入っていった。

 

 

 

私も慌てて彼のあとに続く。

 

「失礼します。」

 

 

 

「藤高か?」

 

 

 

「はい。ここに来るようにとチーフから言われたのですが。」

 

 

 

「あぁ、とりあえず中に入って。丁度いい、類家も中に入りなさい。」

 

 

 

「は、はい。」

 

 

 

私は部屋に入ると静かにドアを閉めた。

 

 

 

 

「二人を呼んだのは、今度行われるクリスマス用の企画についてなんだ。」

 

 

 

 

先日、急に入り込んだ仕事。

 

 

 

国内でも知らない人がいないほどの宝石ブランド【R】からのポスターデザインの依頼。

 

 

 

今年クリスマス限定で発売されるジュエリーがいくつかあるらしく、

 

 

その中の一つを私たちの会社が受けもつことになったのだ。