キャリアウーマン

「あなたは空いているコピー機の数を確認してきて。」

 

 

 

「は、はい…。」

 

 

 

彼女は急いでコピー室まで走っていく。私は手早く荷物をまとめると会議室をでる。

 

 

 

 

「類家さん、どうかしましたか?」

 

 

 

「藤高さん。ちょっとクライアントとのトラブルがありまして。今からポスターを緊急で刷らないといけないんです。」

 

 

 

「トラブル…。分かりました、こちらの手が空いている者を呼んできます。お手伝いしますよ。」

 

 

 

「でも…。」

 

 

 

「あぁ、俺だ。至急伝達して欲しいことがある。」

 

 

 

「そんな、申し訳ないです。」

 

 

 

有無を言わさず電話をかける藤高さん。

 

 

彼はテキパキと助っ人に来てくれた営業部の人に指示を出すと、コピー機をフルに稼働させる。
勿論昼休み返上で増版をした結果、予定よりも早く600部のポスターが出来上がった。

 

 

 

「類家先輩、本当にすいませんでした。」

 

 

 

「まだ、終わってないわ。話はこの配送が終わってからよ。あなたは仕事を続けて。」

 

 

 

「はい、分かりました。」

 

 

 

「類家さん、乗ってください。」

 

 

 

藤高さんが車を出してくれることになって、私は藤高さんと一緒にクライアント先に向かう。

 

 

 

 

スピードを上げて高速道路を走った結果。

 

 

日没の寸前、私たちはギリギリクライアント先の会社に駆け込む。

 

 

 

車のドアを開け入口に走ると、腕組をしていた社長が私たちに鋭い視線を投げかけた。

 

「類家さん…。」

 

 

 

「この度は大変申し訳ありませんでした。」

 

 

 

隣にいる藤高さんと一緒に社長に深々と頭を下げる。

 

 

 

 

「600部、あるんですか?」

 

 

 

「はい。枚数はそろっています。」

 

 

 

「はぁ…。」

 

 

 

社長は大きくため息をつくと、私たちに顔を上げるように促す。

 

 

 

それに従って私たちは静かに顔を上げる。

 

 

 

 

「正直、間に合うとは思っていませんでした。」

 

 

 

「本当に、申し訳ありません。」

 

 

 

「いい加減な仕事をする方たちとは申し訳ないが、仕事をするつもりは無い。」

 

 

 

 

頭から降ってくる重い、重い言葉に唇を噛み締める。
「しかし、貴方たちはこうやって間に合わせた。」

 

 

 

語尾が柔らかくなった社長の目をしっかりと見つめる。

 

 

 

「よくやってくれた。お疲れ様でした。」

 

 

 

そう言うと社長は大声で部下を呼びつける。

 

 

 

 

「おい、これを早く運べ。なんとしても間に合わせるぞ。」

 

 

 

「「はい。」」

 

 

 

私たちがまた深々と頭を下げると社長は無言のまま戻っていった。

 

 

 

 

 

「類家です。何とか無事に間に合ったわ。どうしてこうなってしまったかは、あなたが一番分かっているはずね。もう同じ失敗は繰り返さないで。大丈夫よ、お疲れ様。」

 

 

私はそう言うと電話を切った。

 

 

 

「藤高さん、今日は本当にご迷惑をおかけしました。」

 

 

 

「いえ…、困ったときはお互い様ですよ。」

 

 

 

そう言って微笑む藤高さんに、私も小さく笑い返す。

 

 

 

 

「そうだ、藤高さんお腹すいてませんか?」

 

 

 

「そうですね…少し、いやペコペコです。」

 

 

 

「ぜひ、私にご馳走させてください。」

 

 

 

私はいつも行っている飲み屋に藤高さんを案内する。

 

 

 

ガヤガヤと騒がしい店内。

 

 

一番奥の席に座ると私はメニュー表をめくる。

 

 

 

 

「藤高さん、何食べますか?」

 

 

 

「俺は、高野豆腐を食べようかな?」

 

 

 

「へぇー、藤高さんって高野豆腐好きなんですか?」
「子どもの頃から大好物なんです。」

 

 

 

「私も大好きなんです。」

 

 

 

思わぬところで共通点が見つかり嬉しくなる。

 

 

 

 

 

私は出てきた高野豆腐を口に入れる。

 

 

 

 

彼が丁寧な箸使いで、食事をしているのを見ると、なんだか親近感が湧いてくるような気がした。

 

 

 

 

「何か…藤高さんって、喋るんですね。」

 

 

 

「あぁ、基本的にね。人見知りなんですよ。」

 

 

 

「意外です。」

 

 

 

「類家さんも、キャリアウーマンって感じがしてたんですけど親しみやすいんですね。」

 

 

 

そうですか?なんて首をかしげる。

 

 

 

 

あんまり自覚ないけど。