溺愛

最近は自分自身の企画を進められるようにもなってきた。

 

 

 

何よりもせっかく雇ってくれた彼に恥をかかせるわけにはいかないから。

 

 

 

 

「透は嘘ばっかりつくな。」

 

 

 

突然後ろから声がして驚いて振り返る。

 

 

 

「部長…。」

 

 

 

「どう見たって、そんなのすぐに帰れるわけないだろ。ってか働き過ぎ。」

 

 

 

そうやって笑うと、部長は隣の椅子に座ると私の頭を撫でた。

 

 

 

「もう、子ども扱いしないでください。」

 

 

 

「そうやってふて腐れるとこが子どもなんだよ。」

 

 

 

「将来、子どもとか出来たら溺愛しそうですね。」

 

 

 

「そうだな…もうこんなに透のこと溺愛してるからな。」
分かってる。

 

 

 

 

そうやってすぐに上手くかわしてしまう所も、

 

 

 

 

 

綺麗に着こなしてるスーツも、

 

 

 

 

 

 

目じりに優しく集まる皺も、

 

 

 

 

 

 

 

私なんかよりずっと大人だってわかってる。

 

「俺、腹減ったからさ飯食いに帰ろう。それ今やんなくたって透なら全然間に合うような仕事だろ。」

 

 

 

「でも…。」

 

 

 

「優さんも心配するし、一緒に帰ろう。送っていくから。」

 

 

 

ズルい…。

 

 

 

 

「うん…。」

 

 

 

 

ズルい。

 

 

 

そんなに優しく笑われたら大人しく言うこと聞くしかない。

 

 

 

私は切りのいいところまで書類をまとめるとデスクを出た。

 

 

 

「涼しくなったな。」

 

 

 

「もう秋だからね。」

 

 

 

「車取ってくるから玄関で待ってて。」

 

 

 

「分かった。」

 

 

 

恭太さんは、自分の着ていたジャケットを私の肩にかけると小走りに駐車場に向かった。

 

この匂い落ち着く。

 

 

 

昔からそうだ。

 

 

 

彼は何よりも私のことを優先する。

 

 

 

何よりも大事にしてくれる。

 

 

 

「人の気も知らないで…。」

 

 

 

 

 

遠くなる背中にそうポツリと呟くと、玄関の扉が開いた。

 

 

 

 

私たち以外にもこんな時間まで残業していた人がいたらしい。

 

 

 

「お疲れ様です。」

 

 

 

そう声をかけると、彼は少し驚いた顔をしたが小さく会釈を返した。

 

 

 

 

随分と若い人だな。私と同じくらい?

 

 

 

 

(プープー)

 

 

 

迎えの車のクラクションが鳴る。

 

 

 

私はもう一度会釈をすると小走りに恭太さんの車に駆け寄った。